スウエーデンの面白いものたち


by nyfiken
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移民とはなにか?

スウェーデンは移民を積極的に受け入れてきた。戦争難民。経済移民。ドイツにおけるトルコ人。実はスウェーデン人の奥の深い心情に、トルコ人を受け入れたくないという危惧の気持ちがある。トルコ人は、プライドの高い民族であり、歴史は、勇ましいトルコ行進曲の音楽を聴くまでもない。ヨーロッパとして民族を位置つけるトルコに対して、逡巡するヨーロッパの人たち。

人類の歴史は、移動の歴史であり、国や国境を越え、新しい土地に移動するひとたちは、理由はなんであれ、絶たない。移民ということばがある。日本語で移民というと、ほとんどは、アメリカ、ハワイ、ブラジルなどへ一世紀以上前に移民をした日本人を思い浮かべる。

スウェーデンでは、1800年半ば、国民の30パーセントが食べるものに不自由して、アメリカやオセアニアなどにわたった。ほとんどが貧しい田舎の若者だった。どの村の誰がどこの港からいくらの船代を支払って行ったか。ニュージーランドへ出国したスウェーデンの地方港からの記録を詳細に調べた本を古本屋にであった。ストックホルム中心のオデンプラン地下鉄駅上の広場から角の銀行と本屋の道を入ったところにある古本屋は、その古さと階段がある変則的な作りは、長い古本屋さんの歴史を十分に物語っていた。名物金髪を結い上げたスウェーデンマダムは、パリのマダム風で、ドアをあけるとちらりとこちらを見る。決して愛想がよくないマダムだったが、毛が薄くなりかけた息子は、それと正反対に、愛想がよくて、人がよすぎ気が弱いがゆえに、スウェーデン女性にまったくもてない風な男性だった。息を吸いながら話すシャイな中年の息子と誇り高いマダム。そして2階の踊り場の奥にしつらえた、小さなキッチンとテーブルが置かれた部屋にいる猫。まるで映画のシーンにでもでてくるような静かな雰囲気は、外のストックホルムの通りの喧騒から隔離されたような空間だった。

ドアが少し開いてあって思わず中を見ると、猫がみゃあーとえさをねだっている。愛想の悪いマダムは、顔色変えずに、えさをあげに行く。そのいつもの光景。シーンとした古本屋の中にいる至福の時間は、新刊本が並ぶ普通の本屋では味わえない時間だ。わたしのストックホルムの最初の何年間は、そうして、一見無駄に聞こえるかもしれないが、時間がある限り、古本屋の中ですごしたもの。古本屋でコーヒーというスタイルがすきなのだが、イギリスにもヨーロッパの国を訪れると必ずわたしのすること。そして宝物を見つけると、至福ドーパミンがでてくる。

話は戻るが、そのスウェーデン移民史の本はいつも同じ棚に6年ほどあった。いくたびに、ちらりと立ち読みをしてみる。まだあった。という風に。ある日、久しぶりに行った。長い間、金髪の老婦人の美しいマダムが飼い猫と一緒にいる姿をまたいつものように思い浮かべて行った。

少しパリの古本屋的な木の床の音がきしむレトロなお店。突然になくなっていた。途方にくれた。社会主義のスウェーデンがいいとか、新しい政権で経済をたてないさないとだめといった議論は、どうでも新しい政権になってから、古くからあった、儲かっているのか儲かっていないのかわからない、お花や蝶ちょばかりの古本を集めた本屋さんなどが、忽然と消えている。

どの棚にどのお気に入りの本があるか知っていた古本屋さんは、ぎらぎらと輝く安っぽいいまどきのガラスのシャンデリアがさがった不動産屋に代わった。白いシャツにスーツを着たわかいおにいさんが電話で応対する姿がみえる。自分が少し格好がいいと自信満々のしゃれたお兄さんの元気な働く姿。

あのまげの金髪の老女もニャあーと泣いてえさをおねだりしていた猫もいなくなった。幻のようにお気に入りのよみたかった本は消えてしまった。300年前のイギリスの宿屋とその脇のパブのエッセイなど書かれた本。ニュージーランドに渡った1800年台半ばすぎのスウェーデン人の名簿が書かれた本。あの棚にはない。

移民。
異国で暮らしてみないと、わからないことは多い。先人の苦労を思うが、海外で会った日本人は、心にいつも日本を温かく抱いている。夏が来ると昭和という時代を思う。歴史を学びそして未来を生きる。先人の知恵と過ち。海外にでると日本を思うが、ビギナーは日本批判に走りがちだが、海外に長く住むと日本人や日本のよさが案外みえてくる。広い見地を持ち、情報を公平に得て、考えが偏らないようにし、自分たちのアイデンテイテイを失わないようにすることと日本人として心がけている。謙遜しすぎることもなく、あるいは傲慢にならず、心の平安を持つこと。これは、案外難しい。宝くじがあたったら、気持ちが大きくなり、賞賛により、急に自分が昨日の自分と違う感じになる。

これは、自分に言い聞かせていることばである。角川文庫の挨拶だったか、岩波だったか忘れたが、日本の戦争の敗北は、情報からはるか遠く、きちんと世界のことが伝わらなかったからだ。という文章は若き日の私の心を揺さぶった。きちんとした情報とはなんなのか。またうのみにせず、右往左往せず、自分を持つことの大切さを考える。

by nyfiken | 2009-08-20 19:14